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my pain crying,please came back




 言葉なんて、無かった。
 脳では理解しているのに、中身が理解してくれやしない。嘘だ嘘だと頭の中で俺は叫び続けてる。――此れが嘘なら、なんてひどい嘘だろう。此れが夢なら、なんて、怨めしい夢だろう。

「――御遺体は、どうなさいますか」
 どこか他人事のように聞こえたその台詞。
 騎士団の兵士が言うその表情は悼ましそうで、それが、俺だけでなく、今回の被害者すべてに向けられているということは判っていた。
 草原に何列も並べられた、ひとだった姿。周りには、声を嗄らして泣き、呻く人々の姿。それはまるで性質の悪い夢だ。それも極めて悪趣味な――。


 首都内での、大規模テロ。頻繁に起こる小さなテロなんて比じゃない、何人も、それこそ何百人もが負傷し、首都壊滅の危機とさえ聳やかされた、痛烈なもの。負傷者の数は限り無く、死者の数だって少なくはない。何人ものひとが、死んだ。魔物に喰い千切られ、焔に灼かれ、魔物と相討って。それぞれが悲惨な果て方を繰り返し、悲鳴は絶える事がない。
 聖堂の司祭達がプロンテラを駆け巡り、未だ辛うじて息の在るものの蘇生を繰り返す傍から起こるモンスターの怒号。立ち上る血柱、破壊されてゆく街。騎士は総じて剣を取り、普段ならば闇に生きるであろう暗殺者や悪漢さえもが魔物を捌き、プロンテラを保持するべく力を併せた。騎士は騎獣に跨り槍を、剣を振り、弱き市民を護る為にその身を盾に。魔術師達の精鋭は、方陣を敷き魔物を灼き、弓手は矢を番え、疾風の如き勢いで射った。
 そうして、多くの製造専門の鍛冶屋や薬師、露店商人達はカートを引いて足早に駆け去る。それが足手纏いなどにもならず、最も利巧であったから。各言う俺もその例には漏れず、手製の斧を振り回しながら魔物の波を掻いて逃げ惑った。製造ゆえの運の良さと立ち回りの良さで、軽い手傷のみでプロンテラを抜け出した。プロンテラ周辺にもモンスターは放たれた様だったが、国で組まれた討伐隊により、粗方片付いていたらしい。

「良かった、無事だったか!」
 見知った背中に声を掛ければ、振り向く聖職者。傷付いた人々を癒すその中に、そのひとはいた。目が合ってお互いに認めれば、安堵したような、やわらいだ笑みを見せた。
 俺には、相方がいた。初めて俺の鍛冶の腕を誉め、そうして、武器を手にしてくれたひと。
 彼女は聖職者という職ながら、攻撃を重視した鍛え方をしている珍しいひとだった。支援としての力は乏しいが、それでもその殲滅力は他にひけを取らない。そんな相方とブラックスミスである俺は戦闘面での相性が良く、出逢ってから共に狩りをし始めるのは早かった。
 狩りに連れ立って出掛けるたびに、彼女を知っていった。――人を助けることを惜しまない、そんな、今の世情では’偽善’と罵られもするような、お人好し。聖職者とは言え余り支援向きではない癖に、辻支援をして良くSPを枯らしていた彼女。ばかみたいだな、と笑うと、ばかで結構。と笑って返された覚えがある。そんな、ばかな彼女に俺は心底惹かれていた。何故なら、俺もばかだから。
 そんな彼女は、本当に、ばかで。愚かで。
「わたしも、行って来る」
 プロンテラ南の、負傷者を保護するその場所で。
 彼女は凛とした意志を秘めた眸で、未だ悲鳴の嗄れぬプロンテラ市街を見据えていた。驚いて見渡せば、門の前では有志の聖職者や騎士を募る、との旗が立っている。今往けば、命が無いのは火を見るより明らかだと言うのに。
「ば、――何言ってるんだ! 未だ街は魔物の海だぞ!?」
「だから行くんだよ。逃げ遅れた人が残ってる。闘っている人がいる」
 正気か、と。言葉を失う俺を見詰めて、彼女は小さく微笑った。己の獲物であるソードメイスを手に、優しく、その場に相応しくない笑みを浮かべて。
「わたしは、ばかだから」
 その言葉を聞いた瞬間、声が出なかった。止めるべくして伸ばし掛けていた手は垂れて、己の不甲斐無さを強く握り締める拳となる。そんな俺を見て取ったのか、僅かに息を詰めてから、彼女は俺の手を取った。それから、幾重かにして手首に巻かれたブレスレットを解くと、それを彼女自身の長い髪に結び付けた。
「借りてくね」
 絶対帰って来る、そんな意味合いを込めて、彼女は片目を瞑ってウインクを飛ばした。そのおどけた仕草に思わず吹き出して、それから泣き出しそうになりながら、口端を歪めて笑った。
「絶対帰って来てくれ」
「当たり前。今夜のご飯はシチューがいいなァ」
 返される軽口はいつもと変わらないもので、それが嬉しくて、けれど、怖くて。
 失うなんて考えられなかった。壊れるなんて考えたくもなかった。支援者を募る元へと歩む彼女の背を見ながら、俺は必死に祈ることしか出来なくて。手を伸ばして引き留めたくて、無理にでもその場に留まらせたくて。けれど、彼女は市街へと走った。

 ――それから、超大規模爆発が起こったのは、直ぐ後だった。
 立ち上がる紅い閃光、響く爆音。泣き声さえ止んだその次の瞬間に、衝撃波が草原に迄響き渡った。

 首都内にて、古木の枝により出現したモンスターの、自爆発生。それは多くのモンスターや人々を巻き込むもので、首都は半壊、そうしてモンスターはほぼ全滅した。無論討伐部隊も無事な訳がなく、数百人の討伐部隊の半数以上がその命を散らせた。
「嘘だろ……」
 生きている筈が、なかった。
 生きていたら、と思うのは、それは唯の祈りで。祈りのみで救われるのならば、世の中に救われないものはないだろう。
 煮沸した首都の大地が、草原からも見えた。人の焼けるにおいが風に乗って届いて来て、吐き気がする。嘆き咽ぶ人々の声さえも聞こえなくて、俺は、崩れ落ちて、唯呆然としていた。
 笑って、見送った彼女。
 ひどく愚かで、ばかな、彼女。

 生き残りでの野営が、数日続いた。首都内は暫くは入れるようなものではなく、商人達は食べ物やそれぞれを配布して、聖職者たちは手負いのものを癒す事に専念した。――その中に、彼女の姿は見当たらない。
 それから数日、首都内部から担ぎ出される死体、死体。
 蘇生の術を受けて見た目こそ整っているその姿は、まるで安らかに眠っているようにも見えた。爆発を直撃していたものに関しては死体どころか何も残らず、精精残っているのはギルド証や、鎧程度。死体が帰って来るだけ未だいい、と誰かが呟いて、その言葉に嘆きを深くする人々も少なくは無かった。
 草原に並べられている死体の面を探して廻りながら、今日は無かった、今日は無かった、と安堵する日々。彼女の死体が見当たらない事が俺にとってせめてもの救いで、けれど、それは怖くて、怖くて。この隣が彼女だったらどうしよう、もしかしたら見落としているのだったらどうしよう。
 しかし、その悶々と悩みゆく日々はあっさりと終わりを迎えた。
「――」
 傍らに置かれているのは俺の銘の入ったソードメイス。そうして、横たわる、彼女の姿。蘇生の術によりその姿は傷一つない。いつもの聖職者の法衣では無いにしろ、一目見ただけで判る。その眸は閉じられて、長い睫毛が縁取っている。まじまじと顔なんて見詰めた事は無かったが、改めて見詰めると、彼女はとても綺麗だった。
 言葉が出なかった。しかしながら、涙だって、出なかった。声も何もなく、唯呆然と、目の前の状況を受け入れようと、する。
「――御遺体は、どうなさいますか」
 いつの間にか傍らに立っていた兵士が問うた。けれど、返す言葉が見当たらない。
 唯、感じられるのは焦燥。鳥肌がたって、目が瞑れなくて、震えるような寒気が身を襲う。頭を後ろからがつりと殴られたような。
 目の前にいるのは、紛れもなく彼女だ。当たり前ながら俺のブレスレットはなく、彼女は長い髪を流す侭にしている。絶対帰る、と彼女は言ったのに。それが、どうだろう。帰って来たのは、彼女の抜け殻だけだ。
「……嘘だって、言ってくれよ」
 受け入れようとしない、否定を繰り返す自身を脳は叱咤した。けれど、受け入れようとすればするほど吐き気がするのだ。彼女は目の前にいるのに、それなのに動かない。彼女は、消えてしまった。二度と彼女の微笑を見る事はかなわないのだと、震える手を握り締めて、思う。
 目の前に、彼女の笑顔がちらつく。彼女の笑い声が耳元で聞こえる。横たわる彼女の手を攫めば、あたたかさこそ無いものの、その手のやわらかさは殊更に感じられる。
 いっそ、消えてしまえばいいとさえ、思った。
 思い出も、ぬくもりも、何もかもが。此れは夢だと、そう云い付けて。
「――……消えちまえよッ!」
 横たわる彼女の姿が滲む。掠れた声で叫んだ言葉は、地に落ちて届かない。徐々にぼやけていく視界に映る彼女は矢張り彼女の侭で、俺は、声も無く泣いた。



End




>消えてしまえ>my pain crying,please came back

 悲恋……と言うか何というか何というか。プロのテロで恋人を失った人の話。良く在る話ですみません_| ̄|○
 せちゅない系目指して見ましたが、何だか暗いだけな模様。

 BSと殴りプリはよくあるはなしですネとかとか。
 それにしたってリザレクションの定義を何とかしないと人間皆ゾンビになっちゃいますねニヨニヨ(・∀・) それもあんまりだと自分では思うので、ある程度、喋れる程度の傷が瀕死(HP1)状態で、喋る事も何も出来ない、もしくは原型さえ残らない状態を、死亡(HP0)と定義をつけてみたり。色々様々ですよネ!
 2005/07/14 sawakei