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I love you , So please kill me




 ――ねえ、俺はアンタになら殺されたっていいよ。

 いつか冗談めかして言った言葉。アンタは覚えてるかなァ。
 揶揄うように、いいや、揶揄さえ込めて、俺がアンタへ告げた台詞。
 ’アンタになら殺されたっていいよ’
 そう言った俺を、アンタは綺麗にスルーしてくれた気がする。いつもみたいに軽く聞き流して、いつもみたいに俺は笑って、呟いた傍から俺の台詞は空へ流れていった。そうだ、はっきりと覚えてる。――アンタは? 憶えてくれてるかい?

 ああ、それにしたってもう長くは無い話だ。そろそろ終わり、バッド・エンディングというやつ。
 全身が馬鹿みたいに軋んで、四肢は悲鳴を上げている。意識があるのも冗談では無いか、と問いたくなるような自身の状態は十二分に理解ってる。言葉を紡ぐ事さえ躯をひどく苛むけれど、黙っていると、アンタが今にも泣き出しそうで、壊れそうな顔をするから。そんな顔はアンタに似合わない、と言ったって、きっとその顔を止めない。
 アンタはハ、と無理に嘲るように俺を笑って、目前の黒と朱の法衣が目に痛いくらいに鮮やかに映る。そうしてつややかな銀糸が俺の顔へと降りて来て、さらさらとしたそれはくすぐったくて、俺はヘへ、と笑った。
「お前の馬鹿話なんて、イチイチ憶えてられッかよ」
 いつもならばムカつくくらいに不敵な表情を返す癖に、今は口端を歪めて不器用に笑いその声は擦れている。それはアンタが何かを堪える時の声で、何をアンタが堪えてるのかも知ってる。察しが悪いとか良くアンタに言われてたけど、ホラ、俺はこんなにアンタの事を判ってるじゃないか。
 チクショウ。その呟きと共にアンタの舌打ちが耳に落ちれば、靄交じりの意識が更にひとつ、落ちる。きっと、直ぐに意識は底へと消える。誰の手も、アンタの手さえ届かない場所に。――可笑しいな、俺は逃げる側じゃなくて追う側なのに。
「……俺はね、アンタになら殺されたっていいって思ってたんだ」
 舌先に、鉄錆に似た深い苦味。咽喉はカラカラ、言葉を絞り出す度にひどい痛みが走る。灼けつくような渇きが脳を戒めて、只でさえ麻痺しかけている思考回路を狂わせる。ああ、そう長くはない。ああだから、後もう少しだけ。
 俺のその、本当にばかげた台詞をアンタは震える声で叱咤する。グ、と手放さない、と言わんばかりに軋む腕を攫まれて、小さく俺は喘いだ。
「馬鹿野郎、暗殺者が他人に殺されてイイ、なんて馬鹿吐かすな」
「ハハ、違うよ」
 震える声は気丈ながら、俺の意識を攫む腕は強く、手放さないように堅く。らしからぬ様子で俺の腕を攫んで、らしくない声で言葉を紡ぐ。
 余りにも強くアンタが俺を攫むから、そんな顔を拝んで遣ろうと見上げて遣れば、今度はらしくない顔で笑う。知らず頬を打つ熱は、こんな状況になって初めて識った、感情。アンタは俺の前で一度足りとも泣いた事は無かったから、俺もアンタの前で泣いた事なんて無かった。けど。
「アンタ以外にゃ殺されて遣らねェ、って事――」
 ジャラリ、アンタの頸から下げられたクロスの揺れる音。視界の端に、シルバーのその十字が見える。
 それに伴って小さく、息を詰める音が聞こえた。瞠目した、俺が好きだった眸。その眦から滴れる熱は未だ留まらない。きっと俺の言葉尻から察してくれたのだろう、アンタの口唇は震えてた。それは恐怖か、戸惑いか。
「……!」
 言葉を察したアンタの表情は、アンタじゃないみたいに強張って。腕を攫む手に力が強く、強く重ねられた。あんまり攫んだら、痛いよバカ。

 ――きっと、アンタは俺を恨むだろう。きっと、アンタはずっと俺を忘れられないだろう。そうなるように、俺は故意に仕向けている訳だから。――

「ねえ、俺を殺してよ。不殺の聖職者サマ」
 俺の最後の視界に映るのは、アンタのぐしゃぐしゃの泣き顔。
 格好悪ィね、と呟くと、声も無く、白い指先が首筋へと伸びた。まるで優しくキスをするみたいに触れた指先は痛みの熱を溶かすように冷たくて、徐々に籠められる力を感する刹那さえもを包み込んで俺から意識を奪った。
 白む視界いっぱいに、アンタの泣き顔が映った。それからやわらかな口吻けが一度だけ落とされて、何も見えなくなった。最期だって言うのにアンタの口吻けはやっぱり素っ気無くて、俺は何故だか嬉しくなった。ああ、アンタはやっぱりアンタなんだ、って。
 「俺を、忘れるな」
 涙雑じりの青いガキくさい台詞は届いたか、否か。唯意識の欠片で憶えているのは冷たい指先と、頬を打つ熱い滴のみで。もう開く事の無い眼裏でアンタはいつものような笑みを向けて、そうして俺を去かせてくれた。
 ありがとう。なんて、照れくさいけれど。



「――馬鹿野郎」
 ぴくりとも動かない。触れる頸許の鼓動だって、動かない。
 とどめを刺したのは此の手。見送ったのは此の目。最期に触れたのは此の口唇。――歪む視界なんて、判らない。唯判るのは、ひどく、そのからだは熱くて。未だ、熱を持っているのに、二度と開きはしない。未だ、触れた感覚は残っているのに、二度と同じ時は来ない。
 流れ止まぬ涙を、彼は知る由もなく。腕の中、静かに。唯、静かに彼は意識を閉じた。



fin




>癒えない傷>My Dream

 在り来たりな話で申し訳御座いません、と謝罪。瀕死の重症を負ったアサと、プリさん。
 ’アンタになら殺されたっていい’ それ即ち、 ’他の誰にも殺されたりはしない’ ということ。で。他の誰のものにもならないから、せめて最期はその君の腕の中で。
 そんな乙女アサスィンの話でした ハイ_| ̄|○

 2005/0809 sawakei