la la la..
rainrain shall we dance?





 pa tata pa tata patata patata

 繰り返されるリズム、旋律は水を奏で空と遊び。

「雨は好きかい、剣士君」
「雨は好きです」

 聖堂に満ちるメロディは雨のそれ窓を滑り地を打って、布をひくようなさあさあという音色。雨脚は止まず、ただ静静と降り頻る。木々は露を受け煌いて、地は水を受けて潤う。それは万物への恵みの雨だった。
 窓辺に佇む人影が二つ。
 一人はロザリオを首に掛けた剣士の少女、もう一人は銀糸で縫い取りの施された法衣を纏う、白い聖職者。少女が提げる鞘には細かな紋様が彩られ、淡い光を宿している。幼さ残る面持ちながらも、併せる眸は深く強い意志の色。

「私は雨が嫌いだよ。ジトジトしていて気に障る。大体にして神の恵みだと言うが、ただの気象の変化。古人は何もかもを神だ何だと――」
「……聖職者らしからぬ発言は慎んだ方が宜しいかと。又大司祭様にお叱りを受けますよ?」

 足を組み腕を組み。いやに尊大な態度はまるで聖職者としてのそれでなく、横暴な君主のようだ。そんな聖職者に釘を刺すように少女は眼光を細め、大きな溜息をひとつ。傍若無人な聖職者は、そんな少女の様子を眺めながら咽喉を鳴らして笑った。
 男の職位はそれなり、否、並大抵のものではないと言うのはその胸に刻まれた紡星から見て明らか。彼の言葉、彼の思いの侭に少女を教会から掃き出す事も出来るし、それを恐れて彼に対して言葉をあげぬ者も多いのも事実。けれど、少女は恐れも何も無く、彼を見据えている。少女が観ているのは彼の職位でもなく、彼自身だった。――彼は、其れが心地良い。
 少女の結い纏められた蜜色の髪に指先を絡めながら、肩を揺らして。

「君は手厳しいな、剣士君」

 揶揄うように言った台詞に、少女のダークブラウンの眸が射るように男を映した。凛としたひかりを灯すその眸は、強く、気高い。息を止めて見惚れてしまうような綺麗な琥珀に映るのは、果たして。
 研ぎ澄まされた刃の切っ先に口吻けるような感覚。安易に触れれば傷付くだろうし、しかし逆に、刃はひどく脆いものだ。その危うい強さを少女は秘めて、その強さに彼は惹かれているのかも知れなかった。真白の雪路ほど穢してしまいたくなるように、美しく気高いそれこそ、壊してしまいたいと思える背徳心。
 ゆっくりと息を殺して額を寄せれば、少女の幼い眸と、男の眇められた眸が交錯する。壊れ物をやわらかな綿で包むようにゆるやかな動作で、それは長い長い時間のようで、けれども雨が止む迄はなくて。

 瞬の間に閉じられた互いの眸が再び開くと、少女は眸を伏せて、男を両てのひらで押し退けると広い窓の外を見上げた。

「司祭様、雨が、」

 しとしとと降り続く雨はただ均一としたリズム。音階はゆっくりと、流れるままに。時など微塵も流れた風もないようにただ降り続く雨音に、男は何故だか安堵にも似た、緩い息を肺から圧し出した。
 それからゆっくりと少女の手のひらを包み、少女は男の手を払うでも無く、共に窓の外を眺めた。

 ガラス越しの風景、恵みの雨。



fin




>雨の音がする>rain rain

 光源氏計画。(←銘々者在)
 廃プリとクルセ志望剣士ですよん。何か腐れてます、仕様です。(…)

 実はへたれな廃プリだったり。あっちのプリ騎士とはえらい違いですね!

 2005/0502 sawakei